バックネット裏



 ここは、野球戦術や、野球経験者にとっての常識を、野球小説を通じて紹介し、素人である私が半可通ぶる為のコーナーです(爆)。

海老沢泰久著『監督』(新潮社、1979)より
「長島はどんな攻撃を仕掛けてくるか分からんから注意しろ」
 やがて広岡はいった。「セオリーは送りバントだが、そうじゃない可能性もある。その場合考えられるのはバントエンドランかヒットエンドランだ。このケースではどちらもバクチみたいなものだが長島はそんなことには頓着しないから気をつけろ。あるいはバスターもあるかもしれん。だが向うがどんな作戦でこようと、こっちの守備体形はこうだ。いいか、たとえ何が起ころうとセカンドとショートはボールがバットに当るまで動くのを我慢しろ。絶対にランナーにつられて動くな。向うに合せて動いたらこっちが負ける。いいな。ファーストとサードはいつものバントシフトと同じだ。思い切りダッシュしろ。バスターのことは頭におかなくていい。バスターなどやれるものか。作戦が複雑になればなるほどプレッシャーが大きくなり、ミスの確率は高く為るんだ。心配するな」 

 解説:
  状況は、9回裏、5対4で広岡監督率いるエンゼルスが、長島率いるジャイアンツをリードしている場面でのノーアウト1,2塁というケース。ジャイアンツは同点、あわよくば逆転に持ち込む為に、犠牲バントで確実にランナーを進塁させるのがセオリー。しかし、相手は”勘ピュータ”で知られる長島監督だけに、何を仕掛けてくるか分からない面がある、と警戒している。
 犠牲バントしか頭に置いていないと、つい内野手全員が前進守備体形をとってしまうため、バントエンドラン、あるいはヒットエンドランによる強襲策が成功しやすくなることを警戒しての広岡の注意である。 特にセカンドとショートは我慢のポジションである。焦って先に動くと、それだけ間を強打で抜かれる可能性が高くなるのである。
 バスターとは、バッターが一度バントの構えをして内野手をおびき出してから、強打に切り替えて打球を内野手の頭上を抜かせる、という高等戦術。下手にこれが頭にあると動きに迷いが出るため、”バスターなどやれるものか”と広岡は喝破して選手の意思統一を計っている。



井手らっきょ著『らっきょの甲子園物語』(太田出版、1989)より
 実際ライトの守備で打球を追ってみるとレフトよりはるかに難しいことに気づき始めた。
 右打者の打球は、自分の思っている落下点よりライン際に切れる。いままで音で判断し移動した地点では追いつかないことがしばしばあった。また、ランナー一塁のときエンドランがかかり、ライト前に打球が飛んだ場合、ランナーは三塁を狙う。そんなとき、当然、ライトは強肩が要求された。
 右打者、左打者による守備位置の移動も、他のポジションのそれに比べ大きく、重要なものだった。

 解説:
 一般に草野球における”ライパチ”(ライトで八番)は、下手くそな選手のポジションとされている。
 しかしそれは、守備機会が少ない為、そこに打球が飛ばない事を期待しての配置であり、ライトの守備が容易であることを意味しない。むしろ、求められる強肩、捕球の難しさという点では外野でもっとも高度なものを要求されるポジションといえよう。

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