「長島はどんな攻撃を仕掛けてくるか分からんから注意しろ」 やがて広岡はいった。「セオリーは送りバントだが、そうじゃない可能性もある。その場合考えられるのはバントエンドランかヒットエンドランだ。このケースではどちらもバクチみたいなものだが長島はそんなことには頓着しないから気をつけろ。あるいはバスターもあるかもしれん。だが向うがどんな作戦でこようと、こっちの守備体形はこうだ。いいか、たとえ何が起ころうとセカンドとショートはボールがバットに当るまで動くのを我慢しろ。絶対にランナーにつられて動くな。向うに合せて動いたらこっちが負ける。いいな。ファーストとサードはいつものバントシフトと同じだ。思い切りダッシュしろ。バスターのことは頭におかなくていい。バスターなどやれるものか。作戦が複雑になればなるほどプレッシャーが大きくなり、ミスの確率は高く為るんだ。心配するな」 |
実際ライトの守備で打球を追ってみるとレフトよりはるかに難しいことに気づき始めた。 右打者の打球は、自分の思っている落下点よりライン際に切れる。いままで音で判断し移動した地点では追いつかないことがしばしばあった。また、ランナー一塁のときエンドランがかかり、ライト前に打球が飛んだ場合、ランナーは三塁を狙う。そんなとき、当然、ライトは強肩が要求された。 右打者、左打者による守備位置の移動も、他のポジションのそれに比べ大きく、重要なものだった。 |