『バトル・オブ・甲子園』
第二十八話”予兆”




(1)

 文化祭が終わるとすぐ、綾瀬は志摩監督に相談の上で、輪島城東高との練習試合を取り付けてきた。
「今年最後の締めくくりなんだから、頑張ってよね」
 冬が近い。綾瀬の言葉どおり、恐らく対外的な練習試合はこれが最後になるだろう。
 翌週の日曜日、さっそく大栄高のグラウンドにやってきた対戦高は八幡大学附属清水高。思えば高梨が一年の時、一番最初に練習試合で顔をあわせた因縁の相手だ。
 その時は守備の練習が不足していたせいもあってみっともない負け方をしたものだが、二年近くたって状況は一変している。
 いや、正確に言えば変わったのは大栄高のみといったところか。当時は実力的にほとんど差の無かった筈の両校だが、いまや明らかに差がついている。
(ここで苦戦してるようじゃ、進歩が無さ過ぎるもんな)
 第一試合、先発した高梨は七回を三安打無失点に抑え、後続の河野も一失点で封じ、味方打線の挙げた六点に守られて悠々の勝利をおさめた。
 父親を亡くした河野の落ち込みようは一時は半端ではなかったが、今では表面上はほぼ普段どおりに戻ってきている。親父の生命保険のおかげで高校卒業までは金銭面に問題はありません、と高梨にこっそり話してくれたこともあって、とりあえずは心配せずにすみそうだった。
 第二試合は、八大清水は部員数が足りないために一軍半といった顔ぶれなのに対し、大栄高は一年生主体の陣容で挑む。それでもほぼ互角の攻防を繰り広げるあたり、岡村や星野ら、あどけなかった控えの一年生もたくましさを増していた。
 結局第二試合は一点差で競り負けたものの、得るものの大きい練習試合として気分よく終えることができた。
「みんな、ご苦労様。いい感じだったよ」
 綾瀬が愛想よく笑顔を振りまきながら試合を終えた一年生にタオルをくばって回る。はにかみながらタオルを受け取る一年生部員もどこか誇らしげだ。
 樫尾や矢沢といった他の女子マネージャも立ち働いてはいるのだが、どうしても綾瀬の動きが一頭抜けて目立って視野に入ると感じるのは、高梨の気のせいばかりではないはずだった。
 うまく言葉に出来ないのがもどかしいが、ここまで野球部が態勢を固められたのは綾瀬の存在が大きい。それは疑いようもなかった。
(これだけ色々とやってくれていることに、俺たちはどこまで結果で応えられるんだろうか)
「あとは来年だな」
 ネクストバッターズサークルのスプレー缶などの片付けを行いながらそうつぶやいた市川が、珍しく真剣な面持ちで口を引き締める。
「そうだな」
 自らトンボを手にグラウンド整備にいそしむ言葉すくなに高梨は応じた。戦力はそろってきたが、自分たちにはあと一回しか機会が残されていない。そのことを改めて思い起こす。
「しばらく試合できないのはつまんねえな」
「練習をさぼるなよ。あっという間に後輩に抜かれるぞ」
 この冬の間にも、心身の鍛錬は欠かせない。練習メニューをどうしようか、高梨ははやくも先を見据えた考えを巡らせ始めていた。
(といっても、結局は綾瀬頼みになってしまう気もするなあ)
 ちらりとベンチの綾瀬に目を向ける。たまたま顔を上げたタイミングで綾瀬と目があった。どういう意図か判らないが、綾瀬はにっと笑って高梨の視線に応じた。 

(2)

 十二月はひたすら基礎体力作りと称した、走りこみや筋力トレーニングが中心となった練習が続く。
 少ない機会を捉え、技術の向上している一年生はいないか、きっかけを求めている部員はいないかと目を光らせる役割もあるので、地味な練習の中にあっても高梨としては気を抜く間もない。
 もっとも、例年にない暖冬のおかげで必要以上に縮こまることもなく、バットを握り、ボールを投げる機会が失われなかったのは幸いだった。
 強豪高のように立派な室内練習場を備えているわけでもない大栄高のようなチームにとっては、ありがたい状況だった。
 必要とあらば紅白戦も行えたほどで、怪我人も出さずに無事に年末を迎える。

 黙々とした練習風景に色彩をもたらすというわけでもないが、二十四日恒例のクリスマス会に先立って、練習前に部室に集まって浮かれた二年生が数名、お約束のように樋口を捕まえて女装させて盛り上がっていた。
「なんでいつもいつも」
 部室の真ん中で女性用の赤いサンタコスチュームに身を包み、ぼやきながらもうつむいて頬を赤らめている樋口なのだが、そういう恥じらいの様子がいっそう、関係した部員を喜ばせているのはいうまでもない。
「しゃーねーじゃん。休みなしで練習やってる、せめてもの潤いってもんで」
 と樋口の「お色直し」に関与した、越川をはじめとする部員たちが口々に言い募る。恐ろしいもので、彼らは何度かの経験を経て、妙に手馴れてきている部分があった。
 傍らでは、たまたま毒牙を免れた柴村が蒼白になっている。とんでもない部に入ってしまった、とでも思っているかもしれない。
「お前ら、なにかあるとすぐそれだな……」
 何度もやるようなネタじゃないだろうと高梨はあきれるのだが、どうもふざけているふりをしつつ、実は文化祭で味を占めて本気になってる連中が混じっているのではないかと内心で不安になる。
「まあ、判らんでもないけどな」
 市川が傍らで顔をしかめている。綾瀬をはじめとする女子マネージャ陣および崎辺もどう言葉にして良いか判らないといった雰囲気でお互いの顔を見合わせている。
「なんでも場数を踏むと、それなりにやれるようになるものなのね」
 とは綾瀬の弁。文化祭のときは自分が主導権を握っていたので気にならなかったのかもしれないが、いざ男子部員が自発的に動き出すと、さすがに今更ながらに背筋の寒くなる思いをしているらしい。
 それにしても、彼女が口にした場数とは樋口の女装を指しているのか、それを主導した連中の手際を指しているのか、高梨は問いただす気にはなれなかった。
「この熱心さがあれば、甲子園も遠くないんだろうがなあ」
 このぼやきもまた、お約束であった。

 そして正月を迎える。
 午前中のうちに、高梨は大栄高の校門前に足を向けた。
 今年最初の朝錬で気合を入れる――という心積もりでないことは、そこに揃った十名ほどの野球部の面々のいでたちを見れば一目瞭然だった。学生服を着ているものなど一人もおらず、誰一人として練習用具を手にしていない。
 それも当然の話で、綾瀬の提案で、夏の甲子園を目指す必勝祈願を兼ねた初詣を希望者を募って行うことになっていたのだ。
 さすがに男子の中には、紋付袴という、本気だかふざけているのだか判らない格好をしているものはいない。しかし、綾瀬などはしっかり桜色の振袖姿で、気合充分である。
「へへーん、いいでしょ」
 綾瀬は両袖をつまんで広げてみせる。
「これを見せたくて初詣とか言い出したな?」
 もこもことした冬用のジャケットで重装備の高梨は、和服は寒くないのかね、などと思いながら綾瀬に正面からの言葉をぶつける。
「それだけじゃないよ、もちろん」
 綾瀬はいたずらっぽく笑う。それだけではない、と言ってしまえばそのつもりもある、と白状しているも同然だ。
 普通に厚手のセーターにジーンズ姿の崎辺などは、その厚顔ぶりに却って気おされているぐらいだ。
 たわいの無い話をしつつ、近くの神社までぞろぞろと歩いて向かう。
「そういや、ここの神様って、安産の神様とかじゃなかったっけか?」
 部員の一人がそんな声をあげた。
「そうだっけ? でもまあ、参拝客も結構来てるから大丈夫じゃないの?」
 めずらしく歯切れの悪い綾瀬の返事に高梨は不安を抱く。
 なんともとぼけた会話を交わしながら拝殿の前に立って参拝する。安産の神様に甲子園がわかるのか気にならなくもないが、逆に勝負事の願掛けが専門の神様のところには嫌というほどバッティングする頼みごとが押し寄せているだろうから、むしろ穴場なのかもしれない、などと妙なことを考える。
 その後、お守りを買ったりおみくじを引いたりといった定番の行動に移る。高梨と綾瀬はそろって大吉で笑顔を見合わせる一方、市川は末吉という微妙なものを引き当てていた。
「でも、一人も凶がいないって凄くないかな?」
 綾瀬が十名ほどの部員たちの結果を見回しながら、やや興奮した声を挙げる。
「元々凶をいれてない神社なんじゃないかな」と、高梨。
「もう、思っててもそういうことは言わない」
 綾瀬の指摘がすかさず飛ぶ。反論する気もなく、高梨はへいへいと頭を下げ、適当な場所におみくじの札を結び付けようと手を伸ばす。
 ふと、自分が結びつけた木の枝の隣にある、ほどけかけた別のおみくじが視界に入った。はっきりと確かめなかったが「大凶」と書かれていたような気がした。
「……そう縁起の悪いものでもない、か」
 覗き見したのが怒られそうで綾瀬に告げるつもりはなかったが、なんとなく気分が良くなった。

(3)

 そして三学期。まだ寒い日は続くが、夏まで残された時間が少ないことをいやおう無く思い知らされる時期になり、野球部の練習にも力が入る。
 そんな中、野球部の中にひとつの噂話が広がり始めていた。
「聞いてるか?」
 練習に向かう前に部室で着替えている際、市川はそんな風に高梨に向かって話を切り出してきた。高梨が知らないことを半ば確信している口ぶりだった。
「なにが?」
「監督、今年度で退任だってさ」
「またその話か」市川の前で、高梨はうんざりとした表情になる。「なんで、毎年毎年、そういう話になるのかねえ」
 去年も聞いた話であるし、秋季大会の頃にもあった噂だ。中学時代も似たような噂話はいつもこの時期になると耳に入っていた。
「誰かが願望交じりに噂するんだろ」
 と市川。言わずもがな、といった顔をしている。
「判ってるなら乗るなよ」
「いや、今年ばかりはどうも違うようだ」
「そうなのか?」
 高梨も表情を変えた。情報通の市川がふざける様子も無く断言するところをみると、多少は信用が置ける話であるらしい。
 志摩監督には、あまり強い印象は抱いていない。やりにくいと思ったことは少ないが、頼れる恩師といった影響も受けていない。本当に監督が変わるとしたら、寂しいと思うよりも、次の監督はどうなるのだろうかという不安のほうが先に立つ気がした。
 いずれにせよ、何事もないままでは済まされないのだろうなという漠然とした予感が高梨の胸をよぎった。

 変化の予兆は噂ひとつだけではなかった。
「あれ、何をやってるか知ってる?」
 練習に向かう高梨を呼び止めたソフトボール部主将の依岡が指差した先では、重機が入って工事が行われていた。
 部室棟の隣にあるゴミの焼却場と、その隣にグラウンド整備用の土が詰まれていた場所だ。
 焼却場はダイオキシン問題がやかましく言われるようになって以来使われなくなっている。土の山も雑草が生えて古墳のようになっていた為に、仮に雨が降っても誰もこれをグラウンドに入れようなどとは考えなくなっていた。
「さあ」
「相変わらず情報に疎いのね。あれ、ウエイトトレーニング用の建物が出来るって話よ」
 どこから聞いてきたのかは判らないが、依岡は得意げだった。自分の金で建てるわけでもないのに、と皮肉な言葉が高梨の頭に浮かぶが、もちろんなんでも思ったことを口に出してしまうような真似はしないだけの分別はある。
「へえ。ウエイトか」
 依岡が目を輝かせているのも無理はない、と高梨も思う。
 野球部の持つウエイトトレーニング用の用具といえば、使い古しのダンベルやバーベルが数点あるだけ、いちいち部室の外に運び出さねば使用できないので、部室の奥であまり活用もされずに埃をかぶっている。どこの部も似たようなものだろう。
「いまどき、それぐらいの設備があっても罰は当たらないよな」
「そうそう。これで少しは練習メニューを考える頭の痛さから解放されるかもね」
 依岡は鋭い面立ちをほころばせ、意味ありげに笑う。野球部とソフトボール部は、グラウンドの使用時間でやりあっている間柄だ。その表情は、ウエイトトレーニングルームの使用権をめぐってもひと波乱を予感させた。
 だが同時に、依岡のほうは同じ主将という立場からか、高梨に親近感を持っている感があった。体育会の打ち合わせなどで顔をあわせる以外にも、たいてい依岡のほうから機会を作って話しかけてくる。
 喧嘩するよりも仲良くしておいて損はない相手だと高梨も頭で判っているのだが、どうもまだ綾瀬や崎辺の引き抜きをあきらめていないのではないか、と警戒する思いが先にたってしまう。うまく間合いをつかめないところは、高梨にとってはひそかな悩みでもあった。
 かつてのいきさつから、高梨にはソフトボール部との交流への期待も寄せられているのが一層頭痛の種でもある。
「せっかくの施設だけど、俺たちの代じゃ本格的に使う機会はあんまり無いよな。せめて一年前に出来てくれてりゃな」
 ふとぼやきめいた言葉が口の端から漏れる。
「そう言わないの。だいたい、こうやって施設を充実させてくれるのも、今年度の野球部の頑張りが評価されたからでしょ。後輩のためにいいことなんだから、もっと胸を張らなきゃ」
 なぜか同学年にもかかわらず、依岡はお姉さん口調で高梨をたしなめてくる。こういうところは綾瀬と似ていて、彼女たちが親友だというのもわかる気がした。
「別に野球部の功績じゃないと思うけど。まあ、後輩のため、か。そう言われりゃ反論のしようもないけどな」
 四月になれば新たな学年となり、新一年生の部員も入ってくることになるだろう。
 即戦力となるのがどの程度になるのかは想像しようもないが、つい二年前、当時の正岡主将に入部届けを出しに行った自分と市川の姿を思い出す。
 あの頃、自分たちはどんな風に見られていたのか。高梨は、自分が正岡主将と同じ立場に立っていることに、未だに実感をいだけなかった。

 その晩。
「ウチの学校にもウエイトトレ用の設備が出来ることになったらしい。今年の冬に使わせてもらえたらよかったんだけどな」
 自宅の庭で二人して素振りに打ち込みながら、高梨は弟の隼児に、依岡に聞いたままを話す。
 全部話してしまってから、まったく裏をとっていない依岡経由の噂話に過ぎなかったな、と気づいたが、女子ソフトボール部の主将から又聞きした話だというのを明かすのは外聞が悪そうだったので、付け加えるのはやめにした。
「へえ。大栄も結構本腰入れてるんだね」
 隼児からは、言葉とは裏腹に気の無い返事が返ってくる。
「お前は推薦の関係で、他の高校の設備も見てるんだよな」
 高梨は練習試合で他の高校に足を運ぶ機会こそ多いが、グラウンド以外の練習設備まで見学してまわる訳にもいかず、どんな環境で他の野球部が練習しているのかを伺い知るには至っていない。
 その点では中学野球で頭角をあらわし、誘いの声が複数からあがっている隼児のほうが詳しいかもしれなかった。 
「まあね」
「もう、進学先は決まったのか」
 前に井町南にしたいとの話を高梨は聞いていたが、最終的な結論までは知らなかった。
「うん、もうだいたい決めたよ」
 そう応じてから、空気を切り裂く鋭い素振りが一閃する。
「その口ぶりだと、大栄じゃないんだろうなあ」
 高梨はこれまであまり、強引に大栄に隼児を誘うような行動には出ていなかった。逸材が身近にいるのにもったいないと言われようが、やはり兄弟で同じチームに所属するというのは、高梨にとってはあまり居心地のよいものではない。それは中学時代の経験でも確かだった。   
「怠け者だから、弱いチームを強くして甲子園に行く、なんて手間をかけたくないんだよ。だから、最初から一番強いと思ったところにいくつもり」
 自信を前面に出さないのは兄譲りといったところか。謙虚や慎重といった言葉ではひとくくりにできない思惑を内に秘めているのは、高梨にはなんとなく判った。
「わかった。全部言わなくていい」
 やはり井町南か、そうでなければ輪島城東のどちらかだろうな、と高梨は推測する。県内の強豪といえばまずこの二校を置いては語れない。いずれにせよ、いろんな意味で厄介な相手になるだろうな、と高梨は将来に思いをはせた。
 それは、三年生の野球部生活において、これまでの二年とは違った大きな流れが訪れそうな予感でもあった。

(4)

 三月の声を聞くのを待ちかねたように、綾瀬はこれまで以上に積極的に、強豪校との練習試合をとりつけていた。秋季大会で一目おかれるようになったためか、県外からも申し込みがあれば話をそつなくまとめている。
 予算が苦しい野球部の現状をふまえ、可能な限り大栄高のグラウンドに来て貰う形での対戦を組む、涙ぐましいまでの努力があった。
 高梨達も綾瀬の頑張りに報いるべく、次々とやってくる強敵を相手に懸命に立ち向かった。
 ホームの地の利があるとはいえ、甲子園出場経験高を堂々と撃破する一幕もあり、高梨達は自信を深めていった。

 そして春休みになると、これまで様々な形で伝わってきた話が、現実の出来事として目の前に現れるようになってきた。
 まず、毎年のように噂になっていた志摩監督の異動が正式に決定した。後任については決定までもうしばらくかかるとのことで明らかにされなかったが、志摩監督曰く、まず不安の無い人選だから安心するように、との話であった。
「どんな監督かな」
「あんまりおっかないだけの監督は勘弁してほしいよな」
 いくら体育会系とはいえ、志摩監督からは気違いじみた怒声を浴びせられた経験などない。萎縮させられるような熱血監督が来ると何かとやりにくいだろうな、と思うと、現金なもので志摩監督の退任が惜しくなってくる高梨だった。
 そして、高梨の弟・隼児が以前に話していたとおり井町南高を受験し、合格した。受験といっても野球部入学を前提とした形のうえの話ではあるが、勉強は高梨よりもよく出来るほうだったから、普通に受験しても合格したのではないか、と高梨は思っている。
 いずれにせよ、来年度からはライバル同士ということになる。
「また、厄介なやつが厄介なところに行ったなあ」
 中学時代の隼児を知る市川などは、その知らせに露骨に頭を抱えた。
「一年だぜ。今年の夏にはあんまり関係ないだろう。井町南じゃ、しばらく埋もれてるだろ」
「だといいがな。お前の弟だから言うわけじゃないが、井町南があいつを埋もれさせる打線をそろえていたら、それはそれでたまらんぞ」
隼児に対する評価は、市川のほうが高いらしい。地区予選で対戦する機会がないとはいえない。公式戦では弟と相対した経験がないことに、高梨はいまさらながらに気づく。案外と楽しみなような、やりにくいだけのような、妙な気分だった。
 先の見えない部分も多いが、確かなこともある。先代の宮本主将ら三年生を卒業式で送り出し、高梨達は最終学年へと進級する。
 大栄高は新しい監督と新しい部員を迎え、甲子園を狙うことになる。
「今年の夏が、最後の機会だ」
 暖冬の影響で早くもほころび始めた大栄高名物の桜の花を見上げながら、高梨は静かに決意を新たにしていた。 

(二年生篇・完) 第二十九話(三年生篇)に続く


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