一般的意見第2(1990)
国際的技術協力措置(規約第22条)(E/1990/23, Annex III)
1.規約第22条は、経済社会理事会が関連国際連合機関に対し、規約の下で提出される報告により提起される問題であって、「これらの機関がそれぞれの権限の範囲内で … 規約の効果的な漸進的実施に寄与すると認められる国際的措置を取ることの適否の決定にあたって参考になるものにつき」、注意を喚起することができる制度を設定している。第22条の下での主要な責任は理事会に与えられているが、この点で理事会に助言し援助するにあたって経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会が活発な役割を果たすことは、明らかに適切なことである。
2.第22条に従った勧告は、「技術援助の供与に関係を有する国際連合の機関及びこれらの補助機関並びに専門機関」に対して行うことができる。委員会は、この規定は、国際開発協力のいずれかの側面にかかわっている実質的にすべての国際連合機関を含むと解釈されるべきであると考える。従って、第22条に従った勧告は、特に、事務総長並びに、人権委員会、社会開発委員会及び女性の地位委員会のような理事会の補助機関、UNDP、ユニセフ及びCDPのような他の機関、世界銀行及びIMFのような機関、ILO、FAO、ユネスコ及びWHOのような他の専門機関に対して向けられることが適切であろう。
3.第22条は、一般的政策の性質の勧告又は、特定の状況に関係した、より焦点をしぼった勧告のいずれかになりうる。前者の文脈では、委員会の主要な役割は、国際連合及びその機関によって又はその援助によって行われる国際開発協力の枠組みの中で経済的、社会的及び文化的権利を促進する努力により大きな注意を払うことを奨励することであろう。この点で委員会は、人権委員会が1989年3月2日の決議1989/13で、「開発の分野で活動する各種の国際連合機関が、その活動において、経済的、社会的及び文化的権利の十分な尊重を促進するための措置を最も良く統合することができる方法を考慮する」よう勧告したことを注記する。
4.予備的な実際的問題として、委員会は、もし関連機関が委員会の作業により大きな興味を持つならば、委員会の取り組みにとって助けとなりまた、関連機関もより良く情報を得られることになるだろうということを注記する。そのような興味は様々なかたちで表明されうるということを認めつつ、委員会は、最初の4会期における関係国際連合機関代表の出席率は、ILOユネスコ及びWHOを顕著な例外として、非常に低かったと考える。同様に、適当な資料及び文書の情報は、非常に限られた数の機関からしか受領されていない。委員会は、国際開発協力の文脈における経済的、社会的及び文化的権利の関連性のより深い理解は、委員会と関係機関とのより大きな相互作用を通して、相当に容易になると考える。最低限でも、委員会が各会期に行う、特定の事項についての一般的討論の日は、将来的にみて生産的な意見交換が行われうる理想的な状況を提供するものである。
5.開発活動の文脈における人権の促進というより広い問題について、委員会はこれまで、国際連合機関の具体的な努力については、やや限られた証拠しか得ていない。委員会はこの点で、国際連合在住代表及びその他のフィ−ルド・ベ−スの役員に、「特に、人権の側面を持つ[と認められる]継続中の計画及び、特定政府の要請に応じた新規の計画において可能な協力の形態に関する、提言及び助言」を求める書信を出すにあたって、人権センタ−とUNDPが共同で取ったイニシアチブを、満足をもって注記する。委員会はまた、自らの人権及びその他の国際労働基準をその技術協力活動にリンクしようとする、ILOの行っている長年の努力について情報を受けている。
6.そのような活動に関しては、二つの一般原則が重要である。一つは、二つの組の人権は不可分かつ相互依存的であるということである。これは、一つの組の権利の促進のための努力はまた他方の組の権利を十分考慮するべきであることを意味する。経済的、社会的及び文化的権利の促進に携わる国際連合機関は、その活動が市民的及び政治的権利の享受と十分両立したものであることを確保するため、できる限りのことをすべきである。消極的な意味ではこれは、国際機関は例えば、国際基準に反する強制労働の使用、規約の規定に反する個人もしくはグループの差別の促進もしくは強化、又はあらゆる適当な保護及び賠償なしの人の大規模な強制退去もしくは移住を伴う計画を慎重に避けることを意味する。積極的な意味ではこれは、可能な場合には、諸機関は経済成長又は他の広く定義された目標だけでなく、人権の全体的な範囲の享受を促進することに資するような計画及びアプローチの支援者として行動するべきであるということを意味する。
7.一般的関連性を持つ第2の原則は、開発協力は自動的に経済的、社会的及び文化的権利の尊重の促進に寄与するのではないということである。「開発」の名のもとに行われた多くの活動が、後に、人権の観点からは誤った考えであり、逆効果でさえあると認められている。そのような問題の発生を減少させるためには、可能かつ適切な限り、規約の扱う問題の全範囲に対して、具体的かつ慎重な考慮が払われるべきである。
8.人権に対する関心を開発活動に統合しようとすることの重要性にもかかわらず、そのような統合は一般的なレベルにとどまりやすいということは事実である。従って、規約第22条に含まれた原則の実際の運用化を促進するために、委員会は、関係機関の考慮に値する次のような具体的な措置に注意を引きたい。
(a)原則として、関係国際連合機関は、開発活動と人権一般、特に経済的、社会的及び文化的権利の尊重の促進の努力との間に設けられるべき緊密な関係を具体的に認めるべきである。委員会はこの点で、国際連合開発の十年の戦略の最初の3期がいずれも、その関係を認めることに失敗したことを注記し、1990年に採択されるその第4戦略がその脱落を是正することを強く要請する。
(b)1979年の報告の中で事務総長が行った、すべての開発協力活動に関連して「人権への影響の声明」が必要であるという提案に対して、国際連合機関は考慮を払うべきである。
(c)計画及び国際連合機関の雇用する人員に与えられる訓練又はブリ−フィングには、人権基準及び原則を扱う部分を含めるべきである。
(d)開発計画の各段階においては、規約に含まれる権利に正当な考慮が払われることを確保するためのあらゆる努力がなされるべきである。このことは例えば、特定国の優先的ニ−ズの最初の評価、特定計画の認定、計画策定、計画の実施及びその最終評価において当てはまるであろう。
9.国家報告の検討にあたって委員会が特に関心を持ってきたのは、多くの国において、債務及び関連の調整措置が経済的、社会的及び文化的権利の享受に与える悪影響である。委員会は、調整計画がしばしば不可避であり、また、それらは往々にして緊縮を主要な要素として伴うということを認める。しかし、そのような状況では、最も基本的な経済的、社会的及び文化的権利を保護する取り組みはより緊要になるのであって、その逆ではない。規約の締約国及び関連国際連合機関は従って、それらの保護が、なしうる最大限に、調整促進の計画及び政策に組み込まれることを確保するよう、特別の努力を行うべきである。そのようなアプローチ、すなわち、ときに「人間の顔をした調整」又は「開発の人間的側面」の促進といわれるものは、貧しい又は弱い立場にある人々の権利を保護するという目標が、経済調整の基本的な目標となるべきことを要求している。同様に、債務危機を扱う国際的措置は、特に国際協力を通じて経済的、社会的及び文化的権利を保護する必要性を十分に考慮に入れるべきである。同様に、債務危機に対処する国際的措置は、特に国際協力を通して、経済的、社会的及び文化的権利を保護する必要性を十分に考慮に入れるべきである。多くの状況において、このことは、大規模な債務軽減策の必要性につながりうる。
10.最後に、委員会は、規約第22条に従い、技術援助又は開発協力に対して有する特別の必要性について報告の中で指摘するために締約国に与えられた重要な機会に注意を引きたい。
‐訳:申 惠手(青山学院大学法学部助教授)‐
脚注を含む全文は、「『経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会』の一般的意見(一)」青山法学論集第38巻1号(1996年)を参照して下さい。
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