一般的意見第4(1991)
十分な住居に対する権利(規約第11条1項)(E/1992/23, Annex III)



1.規約第11条1項に従い、締約国は「自己及びその家族のための十分な食料、衣類及び住居を内容とする十分な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利を認める」。このように十分な生活水準に対する権利から生ずる十分な住居に対する人権は、すべての経済的、社会的及び文化的権利の享受にとって中心的重要性をもつ。

2.委員会は、この権利に関して大量の情報を蓄積することができた。1979年以来、委員会及びその先行機関は、十分な住居に対する権利を扱った75の報告を検討してきた。委員会はまた、第3会期(E/1989/22, para. 312 を見よ)及び第4会期(E/1990/23, paras. 281 - 285 を見よ)のそれぞれにおいて、一日の一般的討論の日を割いた。加えて、委員会は、1987年12月11日の決議42/197で総会が採択した「2000年に向けての世界住居戦略」を含め、ホ−ムレスのための国際住居年(1987年)が生んだ情報に慎重な注意を払ってきた。委員会はまた、人権委員会並びに、差別防止及び少数者保護小委員会の関連報告をも検討してきた。

3.多様な国際文書が住居に対する権利の異なった側面を扱っているが、規約第11条1項は、最も包括的かつ、関連規定のうちおそらく最も重要なものである。

4.国際社会がしばしば十分な住居に対する権利の十分な尊重の重要性を再確認してきたにもかかわらず、規約第11条1項の設定した基準と世界の多くの地域で広がっている状況との間には不穏なほど大きなギャップが残っている。資源その他の大きな制約に直面しているいくつかの途上国で問題は特に深刻であることが多いが、委員会は、ホ−ムレス及び不十分な住居の顕著な問題はいくつかの最も経済的に発展した社会にも存在すると考える。国際連合は、世界に1億人以上のホ−ムレスがおり、10億人以上の人が不十分な住居に住んでいると推計している。住居に対する権利に関して、何らかの顕著な問題のない締約国はないということは、明らかであると思われる。

5.いくつかの事例で、委員会の検討した締約国の報告は、十分な住居に対する権利の確保に困難があることを認めそれを説明している。しかし大部分は、提供された報告は、関係国で広がっている状況を委員会が十分に把握できるには不十分であった。この一般的意見は、従って、この権利に関して委員会が重要と考える主な事項のいくつかを確認することを目的としている。

6.十分な住居に対する権利は、すべての者に適用される。「自己及びその家族(himself and his family)」という言及は、規約が採択された1966年において一般に受け入れられていた性的役割及び経済活動のパタ−ンを反映しているが、この文言は今日、個人、女性を世帯主とする家庭又はその他のグル−プへのこの権利の適用可能性の制限を含意するものと読むことはできない。従って、「家族(family)」の概念は、広い意味で理解されなければならない。さらに、家族と同様に個人も、年令、経済的地位、グル−プもしくはその他の所属、又はその他の要因にかかわらず、十分な住居に対する権利を有している。特に、規約第2条2項に従い、この権利の享受は、いかなる形態の差別にも服してはならない。

7.委員会の見解では、住居に対する権利は、例えば単に頭上に屋根があるだけの避難所に等しい、又は住居をもっぱら物品とみなす、狭い又は制限的な意味で解釈されるべきではない。むしろ、住居に対する権利は、安全、平和及び尊厳をもって、ある場所に住む権利とみなされるべきである。これは、少なくとも二つの理由で、適切なことである。第一に、住居に対する権利は、他の人権及び、規約がのっとっている基本原則と不可分に結び付いている。従って、規約中の権利が由来するといわれる「人間の固有の尊厳」は、「住居」の語を、さまざまな他の考慮を考えに入れるように解釈することを要求するが、その最も重要なものは、住居に対する権利は、収入又は経済資源へのアクセスにかかわらずすべての人に確保されるべきだということである。人間居住委員会及び2000年に向けての世界住居戦略がともに述べているように、「十分な住居とは … 十分なプライバシ−、十分なスペ−ス、十分な安全、十分な照明及び換気、十分なインフラストラクチャ−、仕事に関する十分な場所並びに基本的な設備が、すべて合理的な費用で得られるものを意味する」。

8.このように、十分さの概念は、特定の住形態が規約の目的上「十分な住居」を構成すると考えられるか否かを決定するにあたって考慮されなければならない多くの要素を強調するのに役立つため、住居に対する権利に関して特に重要である。十分さは、社会的、経済的、文化的、気候的、生態的及び他の要素によって決まる部分があるが、委員会は、特定の状況においてこの目的上考慮されなければならないこの権利の一定の側面を認めることは可能であると信ずる。それは、以下のものを含む。

(a)保有の法的安全。 保有(tenure)は、(公的及び私的)賃貸住宅、共同住宅、借家、保有者占有、緊急住宅及び、土地又は財産の占有を含む非公式の定住を含めたさまざまな形態をとる。保有の種類にかかわらず、すべての人は、強制退去、嫌がらせ及び他の恐れに対する法的保護を保障する程度の保有の安全を有するべきである。締約国は従って、影響を受ける人及びグル−プとの真の協議によって、現在そのような保護を欠いている人及び家庭に対し保有の法的安全を与えるための即時の措置を取るべきである。

(b)サービス、物資、設備及びインフラストラクチャーの利用可能性。十分な住居は、健康、安全、快適さ及び栄養にとって不可欠な一定の設備を含まなければならない。十分な住居に対する権利のすべての享受者は、天然及び共通資源、安全な飲み水、調理、暖房及び照明のためのエネルギ−、衛生及び洗濯設備、食料貯蔵手段、ごみ処理、用地排水並びに緊急サ−ビスに対する継続的なアクセスを有するべきである。

(c)資金的な居住可能性(家計適合性)(affordability)。住居にかかわる個人の又は家計の財政的費用は、その他の基本的なニ−ズの達成及び充足が脅かされ又は譲歩することのないようなレベルであるべきである。住居関連の費用の割合が、一般的に、収入のレベルに比例することを確保するため、締約国は措置を取るべきである。締約国は、住居のニ−ズを十分に反映した形態及びレベルの住居財政並びに、経済的に手の届く住居を得ることができない者のための住居補助金を設けるべきである。経済的な入手可能性の原則に従って、賃貸人は適当な方法により、不合理な賃貸レベル又は賃貸金の増加から保護されるべきである。天然物質が住居の建築資材の主要な源である社会では、そのような物質が利用できることを確保するため締約国は措置を取るべきである。

(d)居住可能性(habitability)。十分な住居は、居住者に十分なスペ−スを与えかつ、居住者を寒さ、湿気、熱、雨、風もしくはその他の健康への脅威、構造的危険及び病原菌媒介動物から保護するという観点から、居住可能なものでなければならない。占有者の身体的な安全も同様に保障されなければならない。委員会はWHOの準備した住居の健康原則を締約国が包括的に適用するよう奨励する。同原則は、住居を、疫学的分析における疾病の条件と最もよく結び付けられる、環境的要素とみなすもの、つまり、不十分で欠陥のある住居及び生活条件は常に高い死亡率及び罹病率と結び付いている、とするものである。

(e)アクセス可能性(accessibility)。十分な住居は、それに対する権利を有する者にとってアクセス可能でなければならない。不利な状況にあるグル−プは、十分な住居資源に対する十分かつ継続的なアクセスを与えられなければならない。従って、老人、子供、身体障害者、不治の病人、HIV陽性の人、慢性の医療問題を有する人、精神病者、自然災害の被害者、災害を受けやすい地域に住む人々及びその他のグル−プは、住居の領域である程度の優先的配慮を確保されるべきである。住居法及び政策はともに、これらのグル−プの特別の住居のニ−ズを十分に考慮に入れるべきである。多くの締約国で、社会の中の土地のない又は不毛な部分にとっての土地へのアクセスを増加させることが、中心的な政策目標になるべきである。権利としての土地へのアクセスを含め、平和にかつ尊厳をもって住む場所へのすべての人の権利を実質化することを目的とした明確な政府の義務が発展させられる必要がある。

(f)場所(location)。 十分な住居は、雇用の選択肢、健康ケアサ−ビス、学校、児童ケアセンタ−及びその他の社会設備へのアクセスを可能にする場所になければならない。これは、仕事の場所への往復の時間的及び財政的費用が貧しい家庭の予算に過度の要求を課しうる大都市及び農村地域双方にいえることである。同様に、住居は、汚染された地域にも、居住者の健康に対する権利を脅かす汚染源に直近の場所にも建築されるべきでない。

(g)文化的相当性。 住居が建築される方法、用いられる建築資材及びそれらを支える政策は、文化的アイデンティティ及び住居の多様性の表現を適当なかたちで可能にするものでなければならない。住居領域の発展又は近代化に向けた活動は、住居の文化的側面が犠牲にされないこと、並びに、特に、適当な場合近代的な技術設備も確保されることを確保するべきである。

9.上記のように、十分な住居に対する権利は、二つの国際規約及び他の適用できる国際文書に含まれた他の人権から切り離してとらえることはできない。この点で、人間の尊厳の概念及び無差別の原則についてはすでに言及した。加えて、表現の自由に対する権利、(賃貸人及びその他の共同体ベ−スのグル−プのためなどの)結社の自由に対する権利、居住の自由に対する権利及び公的意思決定に参加する権利などの、他の権利の十分な享受は、十分な住居に対する権利が社会のすべてのグル−プによって実現され及び維持されるためには不可欠である。同様に、プライバシ−、家族、家庭又は通信に対する恣意的又は違法な干渉を受けない権利は、十分な住居に対する権利を定義するうえで非常に重要な側面となるものである。

10.国の発展状態にかかわらず、即時に取られなければならない一定の措置がある。世界住居戦略及びその他の国際的分析において認められているように、住居に対する権利を促進するために必要な措置の多くは、一定の行為を政府が行わないこと及び、影響を受けるグル−プの「自助」を容易にすることのみを要求するであろう。それらの措置が、締約国の利用できる最大限の資源を越えると考えられる限りにおいて、規約第22・23条に従い、できるだけ早く国際協力の要請がなされ、委員会がそれについて知らされることが適当である。

11.締約国は、不利な条件のもとで生活している社会グル−プに対し特別の配慮を与えることによって、それらのグル−プに正当な優先順位を与えなければならない。政策及び立法は従って、他の者の犠牲で、すでに有利な状況にある社会グル−プを利することを目的とするべきではない。委員会は、生活条件の不断の改善には外的な要素が影響しうること、及び、多くの国で1980年代に全体的な生活条件が悪化したことを認識している。しかし、委員会が一般的意見第2(1990)で述べたように(E/1990/23, annex III)、外的に起こった問題にもかかわらず、規約上の義務は妥当し続け、かつ、経済的緊縮の時にはおそらくより関連性を持つ。従って委員会は、締約国の政策及び立法決定に直接帰属できる、生活及び住居条件の一般的悪化は、賠償措置を伴わなければ、規約上の義務に合致しないという見解である。

12.十分な住居に対する権利の完全な実現を達成するための最も適当な手段は不可避的に国によって相当に異なるであろうが、規約は明らかに、各締約国が、その目的のため必要なすべての措置を取ることを要求している。このことは、ほとんど常に、世界住居戦略第32段落に述べられているように、「住居条件の発展のための目標を定義し、それらの目標の充足のために利用できる資源及びその最も費用効率的な利用方法を確定し、並びに必要な措置の実施の責任及び時間枠を定める」全国的な住居戦略の採用を必要とするであろう。他の人権の尊重を確保することに加え、関連性及び実効性の双方の理由からも、そのような戦略は、ホ−ムレス、不十分な住居に住む人及びそれらの人の代表を含め影響を受けるすべての人との広い真の対話及びそれらの人の参加を反映させるべきである。さらに、関連政策(経済、農業、環境、エネルギ−など)を規約第11条上の義務と調和させるため、省庁及び地方当局との協調を確保するための措置が取られるべきである。

13.住居に関する状況の効果的な監視は、即時の効果を持つもう一つの義務である。締約国が第11条1項の義務を充足するためには、特に、一国で又は国際協力をもとにして、その管轄内のホ−ムレス及び不十分な住居の程度を完全に確かめるため必要なすべての措置を取ったことを示さなければならない。この点で、委員会の採択した、報告の形式及び内容に関する改正一般ガイドラインは(E/C.12/1991/1)、「社会の中で、住居に関して弱く不利な状況にあるグル−プに詳細な情報を提供する」必要性を協調している。これには特に、ホ−ムレスの人々及び家族、不十分な住居に及び基本的な設備への簡単なアクセスなしに住む人々、「不法な」施設に住む人々、強制退去を受けた人々並びに低収入のグル−プを含む。

14.十分な住居に関して締約国の義務を充足するための措置は、適当と考えられる公的及び私的セクタ−の措置のどのような混合をも反映しうる。公的な住居財政が新住居の直接の建設に最も有用に使われる国もある一方で、多くの場合、経験は、政府は公的に建設された住居で住居の不足を完全に充足することができないことを示している。従って、十分な住居に対する権利のもとでの義務への完全なコミットメントと合わせて、締約国が「能力づけ戦略(enabling strategies)」を促進することが奨励されるべきである。本質において、政府の義務は、取られる措置が全体として、利用可能な最大限の資源に従いできる限り短期間にすべての個人の権利を実現するに十分であることを示すことである。

15.要求される措置の多くは、一般的な資源配分及び政策イニシアチブを伴うであろう。しかし、この文脈で、公的な立法及び行政措置の役割は過小評価されるべきでない。世界住居戦略(paras. 66 - 67)は、この点で取られうる措置の種類及びその重要性に注意を引いている。

16.いくつかの国では、十分な住居に対する権利が憲法上保護されている。そのような場合委員会は特に、そのようなアプロ−チの法的及び実際的意味を知ることに関心を持っている。従って、保護が役立った具体的事例及びその他の場合の詳細が提供されるべきである。

17.委員会は、十分な住居に対する権利の構成要素の多くは、少なくとも、国内的な法的救済を与えることに合致するという見解である。法制により、そのような分野は以下のものを含みうるが、これらに限られない。(a)裁判所の差し止め命令の発行によって強制退去や住居破壊の計画を防止することを目的とした法的訴え、(b)違法な強制退去に対する賠償を求める法的手続、(c)賃貸条件、住居の維持及び人種差別又はその他の形態の差別に関して家主(公的、私的にかかわらず)によって又はその支持の下に行われた違法行為に対する申立て、(d)住居に対するアクセスの配分及び利用可能性におけるあらゆる形態の差別の申立て、(e)不健康又は不適当な居住条件に関する、家主に対する申立て。いくつかの法制においては、ホ−ムレスのレベルの顕著な増加を伴う状況において集合団体訴訟を容易にする可能性を模索することも適当であろう。

18.この点で、委員会は、強制退去は規約の要求に合致しないと推定され、最も例外的な状況において、かつ関連する国際法の原則に従ってのみ、正当化されうると考える。

19.最後に、第11条1項は、「自由な合意に基づく国際協力の不可欠の重要性」を認める締約国の義務で締めくくられている。伝統的には、すべての国際援助の5パ−セント以下しか住居又は人間居住に向けられておらず、そのような援助がなされるやり方はしばしば、不利な状況にあるグル−プの住居のニ−ズをほとんど考えないものであった。締約国は、受領国及び提供国双方とも、十分な住居に住む人の数を増加させることにつながる条件を作ることに援助の相当の部分を割くことを確保するべきである。締約国は、国際財政協力を検討するにあたっては、十分な住居に対する権利に関連して、対外援助が最も効果を持つであろう分野を示すよう努力すべきである。そのような要請は、影響を受けるグル−プのニ−ズ及び見解を十分に考慮に入れるべきである。


‐訳:申 惠手(青山学院大学法学部助教授)‐


脚注を含む全文は、「『経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会』の一般的意見(一)」青山法学論集第38巻1号(1996年)を参照して下さい。

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